ベルト一筋40年超の職人に聞く! いいベルトの見極めポイント
山田 敏夫
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山田 敏夫
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小林 正樹
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ベルトってバッグと同じくらい、毎日身に付けるアイテムのひとつですが、見た目以上に手間暇がかかってるってご存知ですか?その手間暇を今日はちょっとご紹介。先日、40年以上にわたり東京・浅草にあるベルト工場「多喜佐々木」に訪問し、社長の佐々木 多喜男さんに詳しくベルト作りについて取材した内容をお伝えします!
■いいベルトってどこを見ればいいのか?
■多喜佐々木のベルトへの情熱とは?
など、「濃ゆいベルト話」をとことん聞いてきましたよ!
ベルトの側面や穴の形状をチェック
「ファクトリエで展開している多喜佐々木さんのベルトは、非常に評判が良く、ビジネスベルトを2本持っていらっしゃる方や、ビジネスとメッシュベルトの両方を持っている方もいます。」
小林:
「一見、ベルトは違いがわかりづらいのですが、いったいどんな秘密があるんですか?」
佐々木さん:
「いいベルトというのは、色々見るポイントはありますが、うちのこだわりは、
1.コバ(ベルトの側面)が良く磨かれているか
2.ベルトの端の角が丸く削られてなめらかか
3.ベルトの芯に「合成芯」ではなく、「革の芯」を使っているか
4.ベルトの穴の内側まで「コバ塗り」されているか
5.ベルトの厚みがしっかりあるか
6.ベルトピンの付け外しをしやすくするために穴が「小判型」
そういったところを見るのが良いと思います。
あとは、もちろん、いい革を使っているかどうかも大事です。
ベルトはシンプルなものなので、素材の良し悪しも大きくかかわってきます。」
内側にも革の芯を使っている
「正直、そこまで詳しくみたことがなかったです(笑)。まずはコバや角を丸く削られているかについて教えてください!」
佐々木さん:
「ベルトは表と裏の革、そしてうちの紳士ベルトの場合は真ん中に革の芯も使っているので、実は3枚構造。なので、革の側面がキレイかどうかはベルト作りが丁寧にされているかを見るのにポイントです。」
削れているかで触り心地が全然違う
「3枚の革を貼り合わせて縫っているので、端のコバの部分が角ばっているとやっぱり手に引っかかって付け心地が悪くなる。なので、面取りといって角を丸く削っています。いまは機械で面取りができるようになりましたが、昔はやすりで1本1本削っていたので、大変でしたね(笑)」
「先ほどの「いいベルトで見るべきポイントの中に、真ん中の芯にも革を使っているということでしたが、「合成芯」を使ったベルトだと、どうなるんでしょうか?」
佐々木さん:
「合成芯は、使っていくうちに硬くなっていっちゃうんですよね。それと軽いというか安っぽいというか。持った感触が軽い感じで、手にしっくりくる感じがない。その点、革の芯を使うと、表も裏も革なので、馴染みがとてもいい。
ちなみに、コストを下げるために、ベルトの裏側にも合成のものを使うところもありますよ。表示上は、表に牛革を使っていれば、牛革:100%と表示できちゃうので、表も裏もちゃんと『牛革:100%』と書いてあるかも、チェックするとよいのではないでしょうか」
一般的には4ミリ程度。
この差が高級感につながる
「先ほど、「厚み」にお話もありましたが、具体的にファクトリエ by 多喜佐々木のベルトは何ミリなんですか?」
佐々木さん:
「ビジネスベルトは、4.8ミリ。5ミリ近いベルトってそうそうないと思いますよ。一般的には4ミリ程度だから。薄いベルトは貧弱な感じで、厚みがあるほうがやっぱり高級感がある。『厚みがあって、身体になじむベルト』がいいベルトですよね。ちなみに、(ビジネスベルトの)表の革は1.5ミリ、裏の革は2.2ミリにすいて使っています。その間に革の芯をいれています」
食卓にある“アレ”で塗る
「だからこそ、コストは度返しで、表から見えない芯にも革を使っているのですね。こだわりの中で気になったのが、「穴の内側までコバ塗りをしている」ということなのですが、これはどういうことですか?」
「昔お客様から、“海外のベルトは穴の内側もコバが塗られている”という話を聞いたことがあって、塗り始めました。それ以来気になって、全部塗っています。穴の内側をどうやって塗るかというと・・・『割りばし』です(笑)。
色々試行錯誤した結果、割りばしに行きつきました。毎回新しいベルトをやるときは、割りばしの先をナイフで削って尖らして塗っていきます。裏の革に塗料が付いちゃいけないから、とても神経を使う作業ですね。本当に大変なので、何かいい機械ががあればいいんですけどね(笑)。一応機械はあるんですけどね。」
「機械があるのに使わないんですか!?」
佐々木さん:
「これはドイツ製の日本に1台しかない機械。この丸い棒がくるくる回ってインクが穴の内側に付いていくみたいなもの。もう壊れてて動かないけど、直しても、多喜佐々木のベルトの穴は楕円形の『小判型』だから、使えないんですよね」
珍しい「小判型」の穴を。
「“小判型の穴”。これも特徴の一つでしたね。」
佐々木さん:
「丸い穴は、一般的で良く見る形でしょ?でもこの小判型にすることで、ベルトピンの通しやすさが格段に違う。丸い穴を開けるための道具は既製品でもいっぱいあるけど、小判型はそうそうない。内側の塗りのことも考えると、丸のほうが楽だけど、でもやっぱり付け外しのしやすさのためにこの小判型にこだわっているのは、多喜佐々木らしいポイントです。小判型の穴で、かつ内側まで塗られているのは本当に珍しいと思います」
風合いが増す染料染め
「“ベルトはシンプルだから素材が大事”というお話もありましたが、どんな革を使っているんですか?」
佐々木さん:
「日本で一番有名といったも過言ではないタンナー・栃木レザーの革を使っていて、ビジネスベルトは表がアメリカのステアー種を、裏にはイタリアのブッテーロを使っています。どちらもとてもいい牛革で手になじみます。染め方にもこだわっていて、多喜佐々木では『染料仕上げ』のものを使っています。顔料仕上げというのもあって、傷とかは隠せるけど、風合いが悪くなったり、透明感もなくなり、使っていくうちに顔料が剥げてきちゃう。染料仕上げなら、使っていくうちに味わいもましていくので」
1日数本も作れないメッシュベルト
「メッシュベルトのむちむちとした、隙間がないのが他では見たことがないのですが、どうやって作っているんですか?」
「これは80歳の職人が手作業で編み込んでます(笑)。これだけしっかり編みこんでいて、しかも厚みがとてもあるので、手が痛くなって1日に何本も作れないって言ってましたね(笑)。海外のものなんかはもっと緩く編んでいて、機械で編み込みしているベルトもあるけど、やっぱり手作業でもここまでしっかり編みこむからこそ高級感が出るんですよね」
小林:
「最後に、これからの目標についてお聞かせください!」
佐々木さん:
「電車で見てても、もっといいベルトを付けてもらいたいなぁと思うことはあるので、ベルトをもっと広めたいですね。ファッションとしてももっとベルトを付けてもらいたい。だから、後継者もしっかり育てて、これからも頑張っていきます」
ベルトへの情熱をとても感じたインタビューでした。最後にメッセージを一言いただきました!
ぜひご自身のベルトをじっくり観察してみてくださいね。
浅草・多喜佐々木商事株式会社
〒111-0032 東京都台東区浅草6-31-6