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日本の縫製工場の現状と私たちが取り組むべきこと

日本の縫製工場の現状と私たちが取り組むべきこと
山田 敏夫

日本の縫製工場の現状と私たちが取り組むべきこと

経済産業省が2024年5月に発表した「繊維産業の現状と政策について」によると、2022年の輸入浸透率は98.5%(国内製造比は1.5%)。
30年前に約50%あった国産製造比率は95%減少し、アパレル縫製工場は減少の一途をたどっています。

私たちファクトリエはこの現状に変化を与え、日本の工場を元気にしたいという想いで事業を営んでいます。
ここでは、日本の縫製工場の現状、私たちが現地視察で直面した課題や解決策についてお話いたします。

日本の縫製工場の現状

日本のアパレル製品の国内製造比率は、過去30年で驚くほど減少しています。1991年には50%を占めていた国内製造比率は、現在ではわずか1.5%にまで落ち込みました。

この劇的な変化の背後には、商社やブランドが低コストで生産できる中国をはじめ、ベトナムやバングラデシュ、ミャンマーに進出したことが大きな要因となっています。

株式会社日本総合研究所の「令和3年度製造基盤技術実態等調査(国内外の繊維産業に関する調査)調査報告書」によると、2010年と比較し、国内28産地のうち知多産地(7社が9社に増)を除いた全ての産地で事業所数が減少しています。
この統計をみた際に、日本の縫製工場が抱える深刻な状況をまざまざと見せつけられた思いでした。

若手が採用できずに高齢化が進み、エネルギー・資材の高騰、賃上げ(工場の多くは最低賃金です)などの苦しい状況が続いている工場にとって、生き残ることは容易ではありません。

ものづくりが減少することで、久留米絣や桐生の絹織物、新潟五泉のニット、岡山倉敷のジーンズなど日本が長年にわたり築き上げてきた独自の技術が失われる危機に瀕しています。

また、縫製工場は女性が多く働く職場であり、工場が閉鎖されると多くの女性が職を失うという社会的な課題も浮き彫りになります。

ここからは私たちが実際に直面した工場がなくなる苦しい現状を紹介します。

世界唯一の技術「汚れを弾く白いパンツ」の伝承

岡山県倉敷市児島地域にある株式会社レッドリバーさんとは「汚れをはじくコットンパンツ」の商品開発に取り組んできました。児島地区は世界的に「ジーンズの聖地」として知られ、その高度な加工技術で名を馳せています。

レッドリバー社とは独自の加工技術を用いて「汚れないジーンズ」の研究開発を実施。この「汚れを弾く白いジーンズ」は、「後」加工と言われる技術です。まずは白いコットンパンツを作り、その後に特別な染料に浸し、独自の乾燥プロセスを経て弾く力を付けます。

2016年から100回以上の試作を経て、2018年にようやく製品化に成功しました。
2019年に特許を取得し、その弾く力が公的機関によって強力であることが証明されました。多くのメディアで紹介され、大ヒット商品となりました。

しかし、2022年のコロナ禍による先行き不透明な状況の中で株式会社レッドリバーの荻野社長は、縫製工場を閉鎖することを決断。事業継続のために地元の銀行に買い手(M&A)を探してもらいましたが、残念ながらどの工場も厳しい経営状況の中、買い手は見つからず、最終的に縫製業を廃止することになりました。

その後、この「汚れないコットンパンツ」の生産は、同じ児島地域にある株式会社晃立が引き継ぐことになりました。以前から製造の一部を担っていた晃立さんは、レッドリバーの荻野社長とも親しい間柄であり、快諾してくれました。荻野社長には一定期間監修をお願いし、なんとか生産が再開されました。それでも発売までは一年以上を要しました。

これからも、岡山県倉敷市児島のジーンズの聖地としてのものづくりを大切にし、産地の独自技術を未来へと繋げる努力を後悔なきよう続けていきたいと思います。

■商品ページ:汚れないコットンパンツ

野球のユニフォーム専門工場と作った「疲れないパンツ」の伝承

ファクトリエがスポーツブランド「デサント」と共同開発した「座るを快適にするパンツ」。

日本人は世界で最も座っている時間が長いという調査結果もあり、この「座る」時間をいかに快適に過ごすかが重要な課題となっています。

ファクトリエは、この課題に着目し、座っているときにストレスがかかりにくいパンツを開発することで、より快適なライフスタイルを提供することを目指しました。

デサントアパレル村岡工場の持つ野球ユニフォームの3Dパターンや縫製技術を応用し、座っている時用の独自の3Dパターンを設計しました。
このパンツは、ビジネスウエアとしてのすっきりとしたシルエットを保ちながら、座った時の快適性を実現しています。例えば、裾がずり上がらず、立っても座っても美しいシルエットを保つことができるのです。

この「座るを快適にするパンツ」は、コロナ禍で座る時間が長くなったこともあり、爆発的なヒットを記録しました。

しかし、2023年にデサント村岡工場が閉業することとなり、多くのファンを持つこの商品が終売の危機に瀕しました。これを受けて、ファクトリエは作れる工場を探し、パターンなどを再度独自に改良することを決意しました。

宮崎県小林市にある南海服装は、ゴルフウェアや婦人パンツなどパンツに特化した技術力を持つ提携工場の一つです。

ファクトリエは南海服装に協力をお願いし、10回以上の試作を繰り返し、ついに前作の「座るを快適にするパンツ」を超える「座るを快適にするパンツ/オールデイズ」を完成させました。

この新作は、前作の優れた快適性をさらに進化させ、座る時間が長い現代人のニーズに完璧に応えるものとなっています。

ファクトリエは、これからも日本の縫製技術を活かし、高品質な製品を提供し続けることで、消費者の生活をより快適にしていくことを目指しています。
■工場紹介:南海服装

特殊な縫製技術「TPS」をもつ工場の閉鎖

東京都板橋区に拠点を置く株式会社バーンズファクトリーは、2010年に創業されました。都内では珍しく、自社で縫製と編みを一貫して行う工場として注目を集めています。

前身のバーンズ株式会社は、東京・練馬に縫製設備、大阪に編み設備を持っていましたが、編みと縫製を自社で完結させることを目指して新たなスタートを切りました。

バーンズファクトリーの特徴的な技術の一つに、「ツイン・プラバー・シーム(TPS)縫製」があります。
この技術は、生地をつき合わせて縫い代をなくし、フラットに仕上げることで、薄くて着心地の良いコートやジャケットを生産することが可能に。ファクトリエでも人気商品の一つでした。

2015年には、愛知県一宮市にある株式会社ソトーからの出資を受け、グループ企業に。ソトーは大正12年に創業した歴史ある染色加工会社であり、この資本提携によってバーンズファクトリーの経営基盤は安定すると期待していました。

しかし、2020年にコロナ禍が始まると、アパレル業界全体が大きな打撃を受けます。
バーンズファクトリーも例外ではなく、特にアパレル製品の販売が不振に陥りました。ファクトリエからは抗ウイルスフィルター入りマスクを3万枚以上オーダーし、生産いただきました。

それでも2022年、アパレル製品の販売不振が続き、最終的には工場を閉鎖することに。これにより、株式会社バーンズファクトリーは株式会社Jファブリック・インターナショナルと社名を変更し、現在は生地の企画販売に事業をシフトされています。

私が訪問した数多くの工場の中でも、バーンズファクトリーのような特殊技術を持っている縫製工場は貴重な存在でしたので残念です。

私たちは、生産現場を守る立場にありながら十分な支援ができなかったことに力不足を感じましたし、今後は、どんな状況であっても消費者である顧客に喜ばれる柔軟な企画力を身につけ、縫製工場を守るための支援を強化していきたいと思いました。

130年の歴史に幕を下ろした老舗の帆布工場

株式会社タケヤリは、1888年に倉敷で創業した老舗の織布工場です。
ファクトリエでは2015年からタケヤリの帆布を使用した6ポケットのトートバッグなどが人気商品で、20以上の帆布バッグを生産し、販売してきました。

工場に行くと重厚感のある音をたてる旧式シャットル織機を使い、ゆっくりと厚い綿帆布を織り上げる様子は圧巻です。

タケヤリは創業以来、小倉織りの足袋や袴地で評判を呼び、第5回内国勧業博覧会では載仁親王より褒状を受けました。

明治後半から現在の主力製品である綿帆布に着手し、1950年には株式会社クラレと提携して合繊帆布の本格的生産を開始。新旧の織機を巧みに利用し、あらゆる帆布を織り上げる技術を持っていました。

手織りから革新織機までの変遷は、日本の織布工場の歴史そのものであり、タケヤリでしか織ることのできないタフな「2号帆布」が特徴です。

この2号帆布は、ベルトコンベアーの基布など、主に工場用製品や資材として使用され、その厚さゆえに日本で2号を織ることができるのはタケヤリただ1社です。縦糸に緯糸を打ち込む様子は非常に迫力があり、素早く動くシャトルが大きな音を響かせます。

この機械の扱いは熟練の職人によるもので、少しでも異常があれば直ちに見つけ、24時間生地が生産され続けるようにコントロールします。機械だけでなく、人の目によって正しく生産されるため、細部まで目が行き届いた丁寧なものづくりが可能になります。

残念ながら、2023年1月にタケヤリは帆布事業を終了することになりました。工場跡地はトヨタカローラ岡山に売却されましたが、タケヤリの生地生産は完全に終わったわけではありません。機械を移動し、親族が経営する丸進工業(倉敷帆布)が生産を継続することになりました。

ファクトリエは今後も丸進工業と協力し、帆布のバッグを生産し続けていく予定です。

このように、日本の縫製工場と産地は、長い歴史と独自の技術を持ちながらも、現代の厳しい経済状況や需要の変動に直面しています。しかし、技術の継承と新たな協力関係を通じて、その伝統と品質を守り続けています。
■工場紹介:倉敷帆布
これらは氷山の一角であり、日本国内のものづくりの現場で明日にも廃業するかという議論は毎日起こっています。表に出ることがない、名も知れぬ素晴らしい技術と伝統をもつ工場を残していくため、まだまだできることはあると思っています。

ファクトリエが目指すこと

情熱と技術で一流品だけを作る

私はこれまで700以上の日本のアパレル縫製工場を訪問してきました。家業は100年続く洋品店で、日本製の服に囲まれて育ち、その品質の高さを肌で感じてきました。

20歳の時、フランスに留学し、グッチでの販売経験を通じてものづくりをリスペクトするヨーロッパの文化に触れました。グッチやエルメス、ルイ・ヴィトンなど、世界的なブランドも元々は工房から始まったことに感銘を受けたのです。

日本の工場は近年、減少の一途を辿っていますが、私はこの状況を変えるためにファクトリエを2012年に創業しました。

ファクトリエは、メイドインジャパンの工場直結ファッションブランドとして、工場の独自技術を発見し、顧客が喜ぶ便益のある商品を開発することを目指しています。

ファストファッションのように来年には着られなくなる安価なものよりも、品質の良い服を長く着ることが最もコストパフォーマンスが良いと考えています。
上質コットン100%のドレスTシャツは繊維が長く滑らかなコットンを使用しており、極上の着心地を提供します。
糸の断面が丸くなるよう撚り合わせることで、型崩れやシワが生じにくく、洗濯後もシワが軽減されます。
特別に発注した糸と特殊な加工により、他にはない唯一無二の生地が作られています。糸の表面をガスで焼いて毛羽を取り除くことで、滑らかな触り心地と高級感のある光沢を実現しました。
エアーブルゾンは、約100年のスポーツウェア作りのノウハウを持つ株式会社アタゴが製造したファクトリエの人気アイテムです。

使用されている生地NOBILUZA®(ノビルザ)は、特殊な編立と加工によりポリウレタンを使わずに高いストレッチ性を実現し、経年劣化の心配がありません。
この生地は三層構造で、中空空間が軽さと通気性を生み出しています。さらに、シワになりにくい性質を持ち、バッグに畳んで入れてもきれいな状態を保てます。
和歌山県の森下メリヤス工場でコットン100%の編地に特殊な加工を施し、圧縮して作られた超高密度生地を使用しています。コットンとは思えないハリとコシがあり、高級スーツ地のような上質さと高級感を持ちます。

フードはハリのおかげで立体的に立ち上がり、どの角度から見ても男らしさが漂います。

ファスナー裏側には「見返し」が設けられており、ジッパーを開けて着用した際も上品な印象を与えます。さらに、レザーの引手がジッパー先端に採用されており、開閉がしやすくラグジュアリー感があります。また、ダブルジップにより開き加減を調整可能に。

工場と直接提携、適正価格で販売

私たちは「工場希望価格」を取り入れ、「高くても買いたい」とお客様に思っていただける”独自価値のある商品”を工場と作って販売しています。
こうすることで、工場にはこれまで以上に多くの利益を還元することができます。

これまでのブランドビジネスにおける値下げ要請(コスト圧力)の搾取構造はこれからの未来にサスティナブルではなく、長期的に見て工場とブランドの双方にとって良い結果を生むことはありません。

そのためにも、どこかで買えるものではなく、ここでしか買えないものを生み出すことが重要ですし、価格以上の価値を前提に、適正価格に努めてまいります。

工場名を公開。職人に誇りを、お客様に安心を

私たちは工場の名前を出し、工場情報を公開することを大切にしています。お客様にとっては修理などを安心してお任せいただけます。

これまでファッション業界では「ブランド名」が優先され、工場の情報は隠されてきました。しかし、工場名を公開したことで職人たちは誇りを感じ、一層良いものづくりができるようになりました。

次世代の工場の後継者たちを応援

▲各工場の後継者たち 2019年ものづくり文化祭にて

アパレル業界は、高齢化が進行し、若手職人や従業員の不足が深刻化しています。熟練した技術を持つ職人が退職する一方で、若手の育成が追いついておらず、技術継承が困難な状況にあります。同時に後継者自身が業界の将来性に疑問を抱くことがあり、モチベーションを維持するのが難しい状況です。

そのため次世代の後継者向けに年に一回ものづくり文化祭というイベントを開催。横(同世代)のつながり・縦(先輩経営者)のつながりを作ることで、伝統的な経営スタイルからの脱却し、海外の安価な労働力を背景にした製品に対抗するための総合力をつけることが目的です。

ファッショントレンドは非常に速く変化するため、その変化に柔軟に対応する能力も求められています。同時に環境に配慮した生産方法や素材の使用が求められ、知識の共有と持続可能な経営は不可欠と考えています。

これからもファクトリエは、日本の縫製工場を元気にする一助となるべく、これからも品質の高い日本製の洋服を作り続けます。
工場とともに成長し、持続可能なファッション業界を日本から築いていくために努めてまいります。

私たちのチャレンジに共感していただけるとありがたく思います。
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山田 敏夫
ファクトリエ代表です!月の半分以上はアパレル工場やものづくりの現場に訪問しているので、職人の魅力をはじめ、地方のグルメや活躍されている異業種の職人さんたちの語れるストーリーをお届けしています!