- 岡田 武史(株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長/元サッカー日本代表監督)× 山田敏夫(ファクトリエ代表)
1 | 今治へ──「壊すより、ゼロからつくる」
山田:
まず、今治へ向かった原点から伺えますでしょうか?
岡田さん(以下敬称略):
大阪生まれの私が11年前に今治へ行ったのは、「自ら判断し、主体的にプレーする選手を育てたい」と本気で思ったからです。Jの既存クラブでやると、まず“壊す”ことに膨大なエネルギーが要る。だったら時間がかかってもゼロから作る方がいい、と。ちょうど今治で先輩が会社を経営していて「やれ」と背中を押された。言われるまま株式51%を買って、気づけばオーナーに。お金はない、バックオフィス6人からの泥臭い経営。だけど倒れなかったのは、最初に“理念”を掲げ、経営判断を一貫させたからです。
山田:
どんな理念を据えられたのでしょう?
岡田:
「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」。数字にならない“信頼・共感”を資本として扱う、と腹をくくりました。たとえば今治なのでビブスをタオルで作ると決めたら、スポンサー表示の印刷問題が出ても“信頼を取る”ために作り直す。母子家庭の子には遠征費を無償にする。目の前の損得より理念を優先する。その積み重ねが、コロナ禍でもパートナーが離れず黒字を生んだ核心だと思っています。
2 | 主体性を育てる学び──FC今治高校の挑戦
山田:
学校づくりにも、主体性が軸にありますね?
岡田:
学校では“コーチ”が3つの質問を徹底します。「どうしたの?」「君はどうしたい?」「手伝えることは?」──答えを与えない。自己決定させ、当事者意識を育てる。開校当初は問題だらけ。でも我慢して任せると、1期生が自分たちでオープンスクールを企画・運営し、見事にやり切った。寄り添うとは介入しないことではなく、対話を重ね“決定は本人に”返すこと。これが“主体性”の本質です。
山田:
なぜ今、主体性が不可欠なのでしょうか?
岡田:
ロールモデルが機能しない時代になるからです。気候変動もAIも“前例が効かない”。「こうすれば正解」は誰も持っていない。自分で考え、決め、動き、失敗から学ぶ“エラー&ラーン”の力が要る。だからこそ教育も経営も、“自分事化”を仕掛ける設計に変えねばいけません。
3 | 勝負の神は細部に宿る──モラルがチームを強くする
山田:
現場づくりで大切にすることは?
岡田:
“細部”です。コーンの外側を回る、「三苫の1ミリ」と言われるように最後の1mmまで走る──ルール以前の“当たり前”を文化にする。人は「自分一人くらい」から崩れる。だから“自然と皆が外を回る”空気をつくる。これがモラル=企業文化で、勝負の8割はここで決まると考えています。
山田:
企業理念は6つのフィロソフィーがあると聞きました。
岡田:
はい、「Enjoy/Our Team/Do Your Best/Concentration/Improve/Communication」です。
・ENJOY「サッカーを始めたときの楽しさを忘れないで!!」
・OUR TEAM 「チームは監督のものではなく、選手一人ひとりのもの」
・DO YOUR BEST 「チームが勝つために、全力を尽くそう!」
・CONCENTRATION「今できることに集中しよう!」
・IMPROVE「現状に満足せず、常に進歩する気持ちを持ち続けよう!」
・COMMUNICATION「コミュニケーションをとり、お互いを理解しよう!」
この6つを浸透させ、現場のモラルを育てています。
4 | リーダーは“ありのまま”で挑む──直感と覚悟
山田:
組織を導く決断について教えてください。
岡田:
ワールドカップ級の決断に“正解”はない。最後は“無心”の直感で選びます。利害や批判を気にして出た直感は当たらない。腹を括ると、判断がシンプルになる。私はフランスW杯最終予選でどん底の圧力を経験し、そこで遺伝子にスイッチが入りました。以降は「全責任は自分が負う。だが決めるのはお前だ」と当事者に返す姿勢を貫いています。
リーダー像で言えば、“スーパー・ヒーロー”型のリーダーではなく、主体性を引き出し同じ方向に巻き込む“キャプテンシー”が今の時代には強いと思っています。ありのままをさらけ出し、高い山に必死で登る背中を見せる。それが人を動かす、と信じています。
5 | スタジアムは“心のインフラ”──今治でつくる共助の輪
山田:
今治の街づくりは、どんなビジョンで?
岡田:
サッカー専用スタジアムを“365日人が行き交う里山”にしたい。アシックス里山スタジアムのビジョンは「心が震える感動、心が踊るワクワク、心が温まる絆」。サッカーを知らなくても楽しい場所にする。駐車場を畑やドッグランやカフェに変え、障がい者の就労や若者のメンタル回復の場にもする。“目に見えない資本”が循環するコミュニティを設計するんです。
資金は物語で集めました。エクイティ、ローン、企業版ふるさと納税、補助金──「心のよりどころをつくる」という一本筋の通ったストーリーに共感が集まった。最終的に里山スタジアムは“共助のコミュニティ・ベーシックインフラ”の核。住まい・仕事・医療の安心を地域内で支え合う構想です。
山田:
人口減少や地域の閉塞をどう乗り越えようとお考えでしょうか?
岡田:
大切なのは“交流人口→関係人口→定住”の階段づくり。スタジアムがハブとなり、学び・働き・遊ぶを横断して人の往来を生む。実際、今治は移住志向ランキングで上位の常連になり、限界集落の回復も始まった。もちろん私たちだけの成果ではなく、行政や多くの仲間が一緒に積み上げてきた結果です。
6 | AI時代の人間らしさ──“二つの豊かさ”を統合する
山田:
AIが高度化する社会をどう捉えますか。
岡田:
便利・快適・安全の“物の豊かさ”はAIが加速させる。一方で、人が生きる意味は“心の豊かさ”──失敗から学び、助け合い、絆が生まれるプロセスに宿る。AIが最適解を提示しても、人は“自分で決める”主体性を手放しちゃいけない。だから、地域には“心の寄り所”となる場とコミュニティが必要で、スポーツや文化はその核になれる。資本主義が格差と分断で行き詰まるなら、下から“共助のネットワーク”を積み上げ直す。私はその実装を今治でやっています。
7 | 若きリーダーへ──小さな「当たり前」を積み重ねる
山田:
最後に、次の世代に向けてメッセージをお願いします。
岡田:
立派なスローガンより、日々の“当たり前”をやり切ること。理想と現実は矛盾しない。理想を実現するために、現場で“今できること”へ集中する。
それから“夢”を語ってください。数字の管理だけでは人は続かない。胸が躍る、少しホラに見えるくらいの夢を本気で掲げ、ありのままの自分で登り続ける。人はその背中についてきます。次世代に良い社会を手渡す責任は、今を生きる私たちにある。だから私は、これからも今治で、仲間と一緒に汗をかき続けます。
山田:
ありがとうございました。理念・主体性・細部の積み重ね──サッカーから経営、教育、地域へと通底する“岡田メソッド”が、とても腑に落ちました。僕たちも“語れるものづくり”で、心の豊かさを積み上げていきます。
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