-三木孝浩(映画監督)× 山田敏夫(ファクトリエ代表)
山田:
本日は映画監督、三木孝浩様にお話を伺いたいと思います。この度はホットロードの公開おめでとうございます。私自身、メンバーと一緒に先週観てきましたが、大変おもしろかったです。本日はホットロードに限らず、三木監督の持たれている映像制作へのこだわりをお聞きできればと思います。
三木:
早速ご覧いただきありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願い致します。
-魅力の引き出し方が、毎回大事にしているポイント。
山田:
早速ですが、映画制作に際してどのようなこだわりをお持ちでしょうか。
三木:
こだわりについては、映画であれば原作、ミュージックビデオ(以下MV)であればアーティストの、原作・素材そのものの魅力をどうやったら引き出せるか。魅力の引き出し方が、毎回大事にしているポイントですね。
山田:
ホットロード、陽だまりの彼女、僕等がいた等、多くの作品を手がけていらっしゃいますが、まずは原作ありきということですね。
三木:
そうです。例えば、MVはアーティスト、楽曲に合わせて映像を作っています。0から1を生み出すというよりは、1を10、100にするといった魅力を多くの人に広げることが面白いところだと思っています。
山田:
以前のインタビューで大学時代に映画サークルに入られたと拝見しましたが、昔からその意識は高かったのでしょうか。
三木:
いえ、大学の頃は脚本を自分で書いていたので違いました。MVの仕事から、相手の魅力を引き出すことを学びました。どうやったら映画監督になれるのだろうと思って専門学校に通うようになり、そこでMVという世界を知り、その後は、MVを通して伝えていくおもしろさを実感するようになりました。
-摩擦が熱量を生み出すからこそ良い作品が生まれる。
山田:
「現在はLINE・facebook・メールなどコミュニケーションツールが増え、その分、コミュニケーション濃度が昔に比べて薄くなった気がする。」とのインタビュー記事も拝見しましたが、“コミュニケーション”についてどう考えていらっしゃいますか。
三木:
現代のコミュニケーションは嫌われないよう、摩擦を避ける受動的なコミュニケーションが選ばれるようになっていると感じています。映画作りにおいては、むしろ人と違う意見を戦わせてすり合わせていく、という摩擦が熱量を生み出すからこそ良い作品が生まれる。人の才能をプラスしていく方が良い物ができると確信していますね。
-まっすぐ悩むのは美しいと思います。
山田:
三木監督の作品は10代を描く青春映画が多いのはなぜでしょうか。
三木:
10代は自分がどこに行けばよいのか、自分の在り方や居場所に迷う人はたくさんいる。それはクラスの人気者だったとしても“自分を本当にわかってくれているのか”悩んでいて、それを愛おしいと思います。でもどうにかしようともがく姿、一歩進もうとしているところに魅力を感じますね。
山田:
悩みに対してピュアさ、不器用さがありますよね。
三木:
そうですね。年を取ると折り合いをつけながら生きていく。折り合いの付けなさ、まっすぐ悩むのは美しいと思います。自分も10代の頃はそういう時期があって、自分の生きるべき道に対してすごく悩みましたから。
山田:
そうなのですか。将来の仕事に対してですか?。
三木:
いえ、自分という人間の存在意義、答えの無い悩みに、学生時代は時間があるので余計に考えてしまっていました。(笑)
山田:
その時の“映画”の存在はどのようなものだったのでしょうか。
三木:
今思うと、映画が漠然とした答えを与えてくれた気がしますね。悩みが浄化されたことは、映画を好きになったきっかけかもしれません。例えば、好きな女の子がいて、振り向かせることができない時、映画の中ではモテない男子が恋に落ちることがある。そういうことだけでも救われる気持ちになれる。リアルとフィクションが結びついて解消されていく気がしました。
山田:
“ふたり”という映画を良くご覧になられていたとの記事を拝見しましたが、どのような作品ですか。
三木:
一番影響を受けた作品です。出来の良い姉と出来が良くないと思っている妹の話です。自分をかばって亡くなった姉に対して、自分が死ねば良かったと思い、悩んでいる姿、劣等感を感じる姿にシンクロしました。それでも自分はここにいていいのだ、と成長するシーンをよく覚えています。
山田:
自分が自分であっていい、という考えは作品にも反映されていますか。
三木:
作品に向き合う自分のスタンスとして役立っていますね。作品そのものの魅力を引き出す、ということが自分の居場所だと感じています。
-映画を見ている時間は自分と向き合える、心地よい時間。
山田:
作品づくりといえば、どの作品も時間の過ぎ方の絶妙な“間”を感じました。
三木:
間=余白があると気持ちよく浸れたりする。僕自身も映画を観ながら、違うストーリーを考えることがあるんですよ。自分のこれまでの人生の中のリアルとリンクさせる。こういう風景を自分が観たらどう思うかな、そうリンクさせるのは心地よい瞬間ですね
山田:
とても共感します。私も映画を観ながら、余白の別のことを考えている自分がいます。田舎のシーンを観て、実家に帰っていないなと思うこと、もそうですよね。
三木:
それは映画の楽しみ方の一つだと思いますよ。自分の生活に照らし合わせながら思考を巡らせる時間は、人生が豊かになる映画の見方だと思っています。ただただ時間を過ごすより、映画を見ている時間の方が自分と向き合える、心地よい時間です。
山田:
最後に、三木監督の持つ映画づくりへの“こだわり”は、スタッフと一丸となって良い物を作ろうと取り組む、チームワークというものでしょうか。
三木:
まずはキャストやスタッフといった関わった人達がこの作品に関わってよかったなと思えることが一番大事。もう一回あの監督の現場であればやりたいと思われる監督でありたいなと思います。それと、原作やアーティストを自分が一番好きになることも大切。一番好きと思えないとやらされ仕事になり、皆ついて来ません。自分が面白いと思うポイントは必ずありますので、自分はこの作品のこういうところを描きたいのだ、というのはオールスタッフミーティングで皆に伝えるようにしています。
山田:
まずは自分が一番好きになり、それを伝え、みなの才能を引き出すこと。素晴らしいこだわりですね。ファクトリエのチーム作りに、とても勉強になります。ぜひ参考にさせて頂きます。 本日はお忙しい中、さまざまなお話をお聞かせ頂きありがとうございました。
Back Number
-
Vol.01 小山 薫堂 / 放送作家、脚本家
「小山薫堂さんに聞く、仕事・モノ選びへのこだわり」
-
Vol.02 関谷 英里子 / 同時通訳者、日本通訳サービス代表
「関谷英里子さんに聞く、言葉の力と丁寧な仕事の基本」
-
Vol.03 黒川 光博 / 虎屋17代
「虎屋・黒川光博さんに聞く、“歴史と挑戦”“思い出とビジョン”」
-
Vol.04 望月 律子 / スタイリスト
「自分らしく楽しめるベーシックおしゃれ道」
-
Vol.05 三木 孝浩 / 映画監督
「三木孝浩さんに聞く、全員参加の映画づくり」
-
Vol.06 齋藤 峰明 / エルメス本社副社長
「齋藤峰明さんに聞く、里山文化と感性の時代」
-
Vol.07 兼松 孝次 / 株式会社かねまつ 代表取締役社長
「兼松孝次さんに聞く、日本のまち・ものづくり」
-
Vol.08 大草 直子 / スタイリスト
「スタイリスト大草直子さんに聞く、おしゃれの哲学」
-
Vol.09 太田 伸之 / 元クールジャパン機構代表取締役社長
「太田伸之さんに聞く、世界と戦える日本企業の育て方」
-
Vol.10 遠藤 恵司 / 株式会社ビームス取締役副社長
「遠藤恵司さんに聞く、日本のブランディング」
-
Vol.11 竹腰 名生 / アパレルブランド「NAO TAKEKOSHI」代表・デザイナー
「竹腰名生さんに聞く、新しい定番づくり」
-
Vol.12 浅田 真央 / フィギュアスケーター
「浅田真央さんに聞く、フィギュア“以外”のこと」
-
Vol.13 辻井 隆行 / 元パタゴニア日本支社長
「辻井隆行さんに聞く、パタゴニアと地球環境への取り組み」
-
Vol.14 輿水 精一 / サントリー 名誉チーフブレンダー
「輿水精一さんに聞く、世界一のウイスキーが生まれた舞台裏の全貌」
-
Vol.15 寺尾 玄 / バルミューダ株式会社 代表取締役社長
「寺尾玄さんに聞く、世の中を熱狂させるアイデア」
-
Vol.16 栗城 史多 / 登山家
「栗城史多さんに聞く、否定に左右されない生き方」
-
Vol.17 吉岡 秀人 / ジャパンハート代表
「吉岡秀人さんに聞く、世の中の仕組みが分かるスーパーボール論」
-
Vol.18 新井 良亮 / 株式会社ルミネ・顧問
「新井良亮さんに聞く、新しい小売の形とは」
-
Vol.19 稲葉 俊郎 / 軽井沢病院 院長
「稲葉俊郎さんに聞く、いのち中心主義の未来社会」
-
Vol.20 高濱 正伸 / 花まる学習会代表
「高濱正伸さんに聞く、一人でメシが食える大人になるために必要なこと」
-
Vol.21 遠山 正道 / Soup Stock Tokyo代表
「遠山正道さんに聞く、アート×ビジネスの美意識に基づく、21世紀型経営」
-
Vol.22 新井 和宏 / eumo代表
「新井和宏さんに聞く、これからの社会に必要とされる“きれいごと”とは」
-
Vol.23 井手 直行 / 株式会社ヤッホーブルーイング代表
「井手直行さんに聞く、我が道を行くブランド作り」
-
Vol.24 行定 勲 / 映画監督
「行定勲さんに聞く、映画と人の関係」
-
Vol.25 中川 政七 / 株式会社 中川政七商店 代表取締役会長
「中川政七さんに聞く、”全てビジョンからはじまる”という考え方」
-
Vol.26 近藤 麻理恵 / 片づけコンサルタント
「近藤 麻理恵さんに聞く、ときめくモノとの生活とは?」
-
Vol.27 西高辻󠄀信宏 / 太宰府天満宮 宮司
「太宰府天満宮の西高辻󠄀さんに聞く、アートとまちづくりについて」
-
Vol.28 見延 和靖 / フェンシング選手
「見延さんに聞く、フェンシング”道”」
-
Vol.29 加藤 洋 / カリモク家具株式会社取締役副社長
「加藤さんに聞く、人と自然の理想的な共生関係とは?」