-遠山正道(Soup Stock Tokyo代表)× 山田敏夫(ファクトリエ代表)
山田
アートにはマーケティングが介在しません。『Soup Stock Tokyo』を運営している遠山さんは、よく「ビジネスがアートに学ぶことはたくさんある」とおっしゃっています。
『Soup Stock Tokyo』においても、スープは単なる売り物ではなく、共感の関係性を広げていくための軸として位置付けていると聞きました。この辺について、お話を聞かせていただけますか?
遠山さん(以下敬称略):
まずは、会社の説明から始めましょう。
株式会社スマイルズは『Soup Stock Tokyo』以外にも多彩な事業を展開しています。セレクトリサイクルショップ『PASS THE BATON』、ネクタイブランド『giraffe』、1日に1組だけ宿泊できる『檸檬ホテル』、GINZA SIXにオープンした海苔弁専門店『刷毛じょうゆ海苔弁山登り』など。
山田:
幅広く、いろいろなことをやられているんですね。
遠山:
はい。でも、これらの姿勢には、アートの考え方が息づいています。多くのビジネスは「成り立つかどうか」という外側に基準があり、言わば大人の都合です。対してアートは、「好きか嫌いか」という内側に基準があり、言わば子どもの都合。私の仕事に取り組んでいるときの心模様は、一言でいうと「恋」かもしれません。
山田:
恋ですか。素敵な表現です。
遠山:
内側に基準があると、個人と仕事が重なり合うんです。純粋な行動原理で働いていると、個人のアイデア、センス、コミュニケーション、情熱、リスクがそのまま全て仕事と重なります。当事者意識を持とうと発破をかけずとも、スマイルズの社員はみな自分事で仕事に向き合ってます。社員が自分事で仕事をしていると、経営層がハンコを押す機会が減ってくる。どうすればより良くなるかを各自で考えながら動くため、上司にお伺いを立てることが少なくなるのです。
山田:
主体性が発揮された具体例はありますか?
遠山:
例えば、会社でイベントを開催する際、登壇者に烏龍茶を出していた時のこと。ある社員が実家に帰ったとき、近所の茶畑でルイボスティーを作っているのを見かけたとします。烏龍茶の代わりにルイボスティーにしたら喜んでもらえるかもしれないと思い、実行に移したとしたら、自分事で仕事に取り組めている証です。
登壇者がルイボスティーを気に入ってSNSで拡散すれば、ビジネスに発展する可能性もあります。ビジネスの端緒となるのはより良くしようという思いであり、より良くしようと思えるのは、日々の仕事を自分事として捉えているからです。
山田:
なるほど。勝手にテコ入れ、しちゃうわけですね。
遠山:
そうです。また、21世紀はアートの時代と考えています。
山田:
アートですか?
遠山:
20世紀は経済の時代でしたが、モノやサービスが供給過多になっている21世紀は文化・価値の時代、つまりアートの時代とも言い換えられます。『業種・業態・用途・内容物・価格』などの具体性に関しては経済の領域ですが、『おいしさ・素材・想い・おもてなし・感動』などの抽象性はアートの領域です。
これまではビジネスにアートの文脈を入れ込んできましたが、最近ではその逆、つまりアートにビジネスの文脈を入れ込みはじめています。アートとは関係のなさそうな場所に作品を置くことで、日常の中に非日常を感じさせる『The Chain Museum』はその先駆け。美術館の裏道、都会のど真ん中、風車の突端、レストラン、古いビル、役所、寺など、ふとした何気ない場所に作品を置くことで、「アートは難解で高尚なもの」という先入観のない状態で作品と向き合うことができます。
山田:
アートにビジネス文脈を持ち込む。おもしろい発想です。
遠山:
マネタイズはこれからですが、賛同している仲間たちとまだ見ぬ景色に向かっていることにトキメキを感じています。気になる場所があったら行ってみたい。興味のあることは突き詰めたい。私たちの矢印はいつも前を向いているんです。
山田:
遠山さんと話していると少年と会話しているような気がします。(笑)いつお会いしても若々しいのは、誰よりも仕事に恋をしているからなのでしょうね。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
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