-小山 薫堂(放送作家、脚本家) × 山田敏夫(ファクトリエ代表)
山田:
今日は、放送作家、脚本家であり、株式会社オレンジ・アンド・パートナーズをはじめとした経営者としても多岐に渡る活躍をされている、小山薫堂さんにお話を伺います。小山さん、宜しくお願い致します。早速ですが、小山さんとの出会いについてです。私も小山さんと同じ熊本出身ですが、実は私の父が、以前、九州新幹線の開通式でご挨拶したらしいのです。「とても良い人だったから、お前会いなさい」と言われまして(笑)。もちろん、もともとお会いしたいと思っていたのですが、そんなエピソードもあって、ご連絡させて頂きました。
小山:
そうだったのですか(笑)山田さんのご実家は、熊本では有名な洋装店ですよね。うちの熊本出身のスタッフも知っていますよ。
-仕事をするときには、「新しいこと」「楽しめること」「誰かを幸せにできること」を意識する。
山田:
ありがとうございます。早速、この企画のテーマである「こだわり」について。幅広くお仕事をされている小山さんには、仕事において大事にされていることや、考え方についてお聞きできればと思います。
小山:
私は最近、仕事をするときに、「その仕事は、新しいか」「その仕事は、自分にとって楽しいか」「その仕事は、誰を幸せにするのか」ということを自身に問いかけています。どれか一つでもあてはまればやっても良いけど、あてはまらない仕事は、そもそも近づかないようにしています。40代になって、余裕が生まれたからこそ、できることですが。
山田:
新しいことをやり続けるのは、大変ではないですか?
小山:
そうですね。でも、幸いにも、全くやったことのない新しい仕事が、突然舞い込むことも多いので、そんな時こそ、おもしろがって挑戦するようにしています。
山田:
なるほど。チャーリー・ヴァイス(http://chalievice.com/)では、知られていない良いものを、見せ方を工夫することで皆さんに紹介されていますが、そのようなお仕事は、元々されていたのでしょうか。
小山:
昔から、やりたいと思っていたんです。私が手広くいろいろな仕事をしているからこそ尊敬の気持ちを込めて、その道一筋の職人さん、作り手が大好きで、そういう人を広く紹介したい、ひとつのブランドとしてまとめられたら、と思っていまいた。それが形になったのがチャーリー・ヴァイスですね。きっと、ファクトリエも考え方は同じですよね。
-モノ選びも、仕事も、“遊び”や“無駄があること”が好き。
山田:
小山さんが最近買われたもので、良かったものを教えて下さい。
小山:
グローブトロッターの鞄を買いました。長いことリモワ派で、10年以上使っていたのですが、あまりに使い込みすぎて長い期間の修理が必要になったので、試しに買ってみたんです。そうしたら意外と軽くて良くて。特に、ちょっと不便なところが良いですよね。金具部分も、乱暴にしてはいけなくて、丁寧に扱わないと、ちゃんと閉まらない。そういう工夫が必要なところが好きです。
山田:
なるほど。小山さんのお仕事を拝見していると、もちろん理念も素晴らしいのですが、そこにある遊び心にいつも感服します。ファクトリエは、僕自身の性格もあるのですが、なかなか真面目になりがちで・・・
小山:
良いんじゃないですか。ファクトリエは、実直で山田さんらしい方がいいと思います。私は、もともと遊び心とか、余裕とか、無駄がある、ということが好きで、特に意識しているわけではないですが、自然とそういう風になっています。
山田:
くまモンも、それ自体ではなく、いろいろな人の参加があって初めて完成するキャラクターとお話されていますね。
小山:
そうですね。昔はブランド側がゆるぎない像を作り上げる形が主流だったと思うのですが、今は、みんなで支えないと倒れてしまうような、ブランドの作り方も良いんじゃないかと思うんです。
山田:
なるほど。
小山:
ファクトリエは、頑丈な感じがして、緻密に計算されすぎているのがもったいないんじゃないかな。山田さんとお話したときに、一人で全部やっていると聞いて共感したので、そういうのをもっと出した方が良い。
山田:
そうですね・・・工場にはブランド力もないので、お客さんが不安かなと思いまして、安心感を与えたくて、サイトも綺麗に作ったのですが・・・。確かに、小山さんのおっしゃる方向とは違っていますね。かえって裏目に出ていますでしょうか。
小山:
キレイすぎかもしれませんねぇ。(笑)
山田:
そうですか・・・。ファッション畑でやってきたので、素敵なサイトなどを見つけると、ついついそこに追いつかなきゃと思って改善してしまいます。
小山:
例えば、ファクトリエが山田さんであるということをもっと見せてはどうですか。ロゴも山田印とか、ご実家のマルタ號にしちゃうとか。(笑)今も、シャツに「HITOYOSHI(人吉)」と工場名も書いてあるのが良いと思うんですよ。
山田:
それは・・・検討させて頂きます。(笑)でも確かに、日本の色を出すと、海外への打ち出などもしやすいかもしれないですね。
-良いものは、自然と買いたくなるし、使いたくなるし、贈りたくなる。
山田:
最近、小山さんが注目されている日本のモノづくりはありますか。
小山:
いろいろと考えているのですが・・・そうですね。浅草の満寿屋さんの原稿用紙、これ良いですよ。こんな風に、名前を入れてくれるんです。誰でも作ってもらえます。こういうものを使うと、人に手紙を書きたくなるし、あと、プレゼントにも良いんです。先日もある人に、名前を入れて差し上げました。プレゼントは、もらうこともありますが、あげるときには、こちらも驚かせてやりたいと思うので、こだわって選びます。
山田:
さすがです。期待を超えていくのですね。モノ選びの基準は、そういった作り手が見え、作り手を応援したいという気持ち、なのでしょうか。
小山:
気持ちも大事ですが、出発点は「モノが良い」ということに尽きると思います。私も、ファクトリエと同じように、作り手を尊敬していますが、あくまでその商品が「良いモノ」だから紹介しています。買う側も、助けようという気持ちで買っていたら、限界があると思うので。
山田:
ファクトリエも、正しい価値をお届けしようと思っています。本当に良いものを、適正な価格でお届けしているのが、お客さまに選ばれる理由ですので、今後も継続できるように頑張ります。本日は、貴重なお時間をありがとうございました。
Back Number
-
Vol.01 小山 薫堂 / 放送作家、脚本家
「小山薫堂さんに聞く、仕事・モノ選びへのこだわり」
-
Vol.02 関谷 英里子 / 同時通訳者、日本通訳サービス代表
「関谷英里子さんに聞く、言葉の力と丁寧な仕事の基本」
-
Vol.03 黒川 光博 / 虎屋17代
「虎屋・黒川光博さんに聞く、“歴史と挑戦”“思い出とビジョン”」
-
Vol.04 望月 律子 / スタイリスト
「自分らしく楽しめるベーシックおしゃれ道」
-
Vol.05 三木 孝浩 / 映画監督
「三木孝浩さんに聞く、全員参加の映画づくり」
-
Vol.06 齋藤 峰明 / エルメス本社副社長
「齋藤峰明さんに聞く、里山文化と感性の時代」
-
Vol.07 兼松 孝次 / 株式会社かねまつ 代表取締役社長
「兼松孝次さんに聞く、日本のまち・ものづくり」
-
Vol.08 大草 直子 / スタイリスト
「スタイリスト大草直子さんに聞く、おしゃれの哲学」
-
Vol.09 太田 伸之 / 元クールジャパン機構代表取締役社長
「太田伸之さんに聞く、世界と戦える日本企業の育て方」
-
Vol.10 遠藤 恵司 / 株式会社ビームス取締役副社長
「遠藤恵司さんに聞く、日本のブランディング」
-
Vol.11 竹腰 名生 / アパレルブランド「NAO TAKEKOSHI」代表・デザイナー
「竹腰名生さんに聞く、新しい定番づくり」
-
Vol.12 浅田 真央 / フィギュアスケーター
「浅田真央さんに聞く、フィギュア“以外”のこと」
-
Vol.13 辻井 隆行 / 元パタゴニア日本支社長
「辻井隆行さんに聞く、パタゴニアと地球環境への取り組み」
-
Vol.14 輿水 精一 / サントリー 名誉チーフブレンダー
「輿水精一さんに聞く、世界一のウイスキーが生まれた舞台裏の全貌」
-
Vol.15 寺尾 玄 / バルミューダ株式会社 代表取締役社長
「寺尾玄さんに聞く、世の中を熱狂させるアイデア」
-
Vol.16 栗城 史多 / 登山家
「栗城史多さんに聞く、否定に左右されない生き方」
-
Vol.17 吉岡 秀人 / ジャパンハート代表
「吉岡秀人さんに聞く、世の中の仕組みが分かるスーパーボール論」
-
Vol.18 新井 良亮 / 株式会社ルミネ・顧問
「新井良亮さんに聞く、新しい小売の形とは」
-
Vol.19 稲葉 俊郎 / 軽井沢病院 院長
「稲葉俊郎さんに聞く、いのち中心主義の未来社会」
-
Vol.20 高濱 正伸 / 花まる学習会代表
「高濱正伸さんに聞く、一人でメシが食える大人になるために必要なこと」
-
Vol.21 遠山 正道 / Soup Stock Tokyo代表
「遠山正道さんに聞く、アート×ビジネスの美意識に基づく、21世紀型経営」
-
Vol.22 新井 和宏 / eumo代表
「新井和宏さんに聞く、これからの社会に必要とされる“きれいごと”とは」
-
Vol.23 井手 直行 / 株式会社ヤッホーブルーイング代表
「井手直行さんに聞く、我が道を行くブランド作り」
-
Vol.24 行定 勲 / 映画監督
「行定勲さんに聞く、映画と人の関係」
-
Vol.25 中川 政七 / 株式会社 中川政七商店 代表取締役会長
「中川政七さんに聞く、”全てビジョンからはじまる”という考え方」
-
Vol.26 近藤 麻理恵 / 片づけコンサルタント
「近藤 麻理恵さんに聞く、ときめくモノとの生活とは?」
-
Vol.27 西高辻󠄀信宏 / 太宰府天満宮 宮司
「太宰府天満宮の西高辻󠄀さんに聞く、アートとまちづくりについて」
-
Vol.28 見延 和靖 / フェンシング選手
「見延さんに聞く、フェンシング”道”」
-
Vol.29 加藤 洋 / カリモク家具株式会社取締役副社長
「加藤さんに聞く、人と自然の理想的な共生関係とは?」