- 見延 和靖(フェンシング日本代表)× 山田敏夫(ファクトリエ代表)
山田:
まずは東京オリンピック団体金メダルおめでとうございます。テレビで応援していたので、金メダルを見せてくれた時は感動しました。
見延さん(以下敬称略):
オリンピックへはリオに続いて二度目の参加でしたが、今回金メダルが獲れてよかったです。
(左が東京オリンピック、右が23年ワールドカップ団体戦の金メダル)
山田:
見延さんと初めてお会いしたのは2019年の夏頃でした。ちょうどエペの年間ランキング1位(世界王者)になったと聞き、フェンシング素人ながら日本人として誇りに思いました。
見延さんは当時から越前市のふるさと大使を務めるなど、地元やものづくりへの思いが強く、すぐに意気投合したことを覚えています。それからはファクトリエを随分愛用してくださりありがとうございます。
見延:
もともと、伝統工芸や細部にまで拘り抜かれた、職人の物作りに興味があり、自分が使っているフェンシング道具も人に自慢したくなるような、拘り抜いたものばかりです。フェンシング道具には世界一拘っているという自信があります。
ファクトリエの商品もまさに、そんな拘りの詰まった商品だと感じていて、ファクトリエの理念にもあるように、まさに、語れるもので日々を豊かにしてくれる、着る理由のある商品ばかりだと思います。そのなかでも特に気に入っている商品は、やはりアタゴで作られたエアーブルゾンです。デザインも機能性も申し分無く、どんな場面でも着こなせる最高の商品です。
山田:
ありがとうございます。愛がひしひしと伝わってきます。(笑)見延さんはどのような経緯でフェンシングを始めたのでしょうか?
見延:
小学校の頃はフルコンタクトの空手を習い、北信越大会で2回優勝経験がありました。中学の時にはバレーボールをやっていて、高校の進学時に父の勧めでフェンシングを試す機会があり、その面白さに惹かれました。
左構えで剣を操るフェンシングは、私が右利きだったので新たな挑戦でした。以前は左半身で構え、左でジャブ、右でストレートを打つスタイルの空手をしていました。フェンシングの突く動作は格闘技のジャブに似ており、空手の経験が左手で剣を使う際や特にカウンターの攻撃において有利に影響していると感じています。その中でのタイミングや間合いの取り方は、過去の空手の経験が役立っているなと思います。
山田:
なるほど、空手の経験も役立っているのですね。リオは個人での出場でしたが、東京では団体戦の出場と勝利にこだわってましたね。それはなぜですか?
見延:
リオデジャネイロオリンピックの選手村や試合会場で団体戦に出場する他国の選手たちが楽しそうにリラックスしている光景を見て、個人で挑む限界とチームで戦う重要性に気づいたんです。リオ経験後、次の東京大会では団体戦での出場を最優先に考えるようになりました。
©日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE
山田:
団体で心がけたことはありますか?
見延:
キャプテンとして、自身がチームを引っ張りながら、メンバーが支え合えるチームを目指し、「ああしろ、こうしろ」と指示を押し付けず、助言やアドバイスを通じて協力関係を築くことに専念しましたね。個人戦では対戦相手になるチームメートたちに技を盗まれても、彼らがアドバイスを受け入れてくれることを信じ、自らも負けずに頑張る姿勢で臨んでいます。オリンピック前の目標や過ごし方についてのアドバイスや、技術の共有を通じて、チーム全体のレベルアップを目指しました。
©日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE
山田:
ライバルでもある後輩たちに全てを伝えるというのはすごいですね。そんな中でアスリートとして勝ち続けるのは何が大事だと思いますか?
見延:
そうですね。毎日練習を頑張ったからといってその日のうちに結果が現れるわけではありませんが、目標に向けて地道に積み重ねていくしかないと思っています。単に練習をこなすのではなく、一本一本、相手をイメージして剣やフットワークを磨くことが肝要です。
個人として成長したと思う点は、感謝する気持ちです。時にはライバルとなる仲間に対しても、感謝とリスペクトの気持ちを持ち、支え合うことで、強い絆で結ばれた個性豊かなチームができたと思います。大きな夢を実現するのに、決して1人の力では実現できません。仲間やサポーターの思いが1つになってこそ大きなエネルギーが生まれるのだと思います。
山田:
一つ一つを真剣に、ということですね。
見延:
フェンシングは単なる速さや力だけではなく、経験や様々な要素が勝敗に影響する競技だと思っています。特にエペの競技は、経験豊かなベテランでも成功することがあり、予測不能な要素が優勝につながることがあります。だからこそ、目の前の勝敗にこだわることなく、フェンシングを深く理解し進化させることが大切だと信じています。この考え方には、職人のような精神が近いかもしれません。
(陶芸家 辻村塊氏の奈良の工房にて:山田撮影)
山田:
職人のような「道」の考え方が近いのですね。
見延:
はい。まずは心を整え、次に身体と技術を整えることが必要です。ピークの波を上げていくプロセスでは、心をまっさらな状態に整えるため、包丁を研ぐことを習慣としています。エペでは同時突きがあり、0.0数秒で心の迷いが敗北に繋がることもあります。自信を持って剣を操るためには、心を整えておくことが不可欠です。
私は福井県の越前市出身であり、包丁の町として知られています。地元の縁で包丁を頂き、その製造現場を見学したことがあります。自らが日本代表であると同時に、地元福井県の代表であるという誇りを大切にし、包丁には地元の人々や応援者の思いが込められていると信じています。包丁を研ぐことでその思いを感じつつ、自らの気持ちも研ぎ澄ませる喜びを得ています。
(ミシュランを持つ西村氏の包丁を研ぐ姿:山田撮影)
山田:
オリンピックで金メダルを取っても向上心が衰えることのない姿勢は、なぜでしょう?
見延:
武生商業高校のフェンシングの恩師、諸江克昭氏からの「限界を自分で作らない」という教えに深い感銘を受けました。諸江先生は練習中に負けてベンチに戻ると、「なんで戻ってくるんだ。勝つまでやってこい」と言っていました。
その言葉から、勝つためには継続的な努力が必要であり、一度でも戻ってしまうことは、自らが勝てないという限界を作ってしまっていることを示唆してます。限界が見えたときには、それが自己成長のチャンスであると認識し、その限界を越えるためには一歩先、半歩先にも挑戦していくことを大切にしています。
(夢は史上最強のフェンサー)
山田:
限界を自分で作らない、素敵な言葉ですね。これからの目標はありますか?
見延:
パリオリンピックでは、団体戦での連覇です!それに加えて、今回のパリオリンピックでは、まだ日本人が誰も獲得したことのない、個人戦での金メダルも目指していきたいと思います。また、最終的な目標は、「史上最強のフェンサー」になること。何歳になってもこのテーマに向けてフェンシングを追求していきたいと思います。
山田:
オリンピックでの活躍を期待していますし、ぜひ将来は最強のフェンサーになってください。これからも応援しています!
(地元創生プロジェクト:見延選手xアタゴxファクトリエ)
23年春、見延選手より移動技として愛用している「エアーブルゾンのカスタマイズ」と「自分にマッチしたトレーニングウェア」が欲しいとの相談を受け、福井にあるスポーツウェア工場のアタゴさんをご紹介。アタゴさんにも快諾いただき、全面協力のもと、両クラフトマンシップによる地元創生プロジェクトが始まりました。
福井の工場、アタゴさんの全面協力のもとトレーニングウェアを開発
見延選手が移動着として使用するエアージャケットは袖を長く、ロゴを入れました。
「史上最強のフェンサー」になってください!(左から私、見延選手、アタゴの愛宕さん)
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