- 小山薫堂(放送作家・脚本家)× 山田敏夫(ファクトリエ代表)

「常識はないが、情熱はある若者」 story01

山田:
本日のゲストは、放送作家の小山薫堂さんです。よろしくお願いします。薫堂さんとは、私がファクトリエを立ち上げる直前にお会いしてから、もう10年以上のお付き合いになりますね。

小山さん(以下敬称略):
はい、よろしくお願いします。実は今日、ファクトリエのジャケットを着てきたんですよ。

山田:
ありがとうございます!かっこよく着こなしていただいて光栄です。薫堂さんが、まだ何者でもなかった初期の頃から今に至るまで、10年以上も応援してくださる理由を改めて伺ってもいいですか?

小山:
理由はとてもシンプルで、「山田君という人間に惚れたから」に尽きますね。日本各地の生産者のもとへ自ら足を運び、泥臭く対話を重ねて、一つひとつの商品を形にしていく。その嘘のない姿勢が好きなんです。初めて会った時、まだ20代で、情熱だけは人一倍あるけれど、正直「常識」はどこかに置き忘れてきたような若者でした(笑)。

山田:
ああ……あの時のエピソードですね(苦笑)。

小山:
そう。彼が初めて作った自慢のシャツを持ってきた時、僕に試着させたんですよ。僕も「いいシャツだね」なんて褒めて、てっきりそのままプレゼントしてくれるのか、あるいは出演料代わりになるのかと思ったら、彼は「ありがとうございました!」と爽やかに言って、僕が脱いだシャツを丁寧に畳んでカバンに仕舞って帰っちゃった(笑)。あの瞬間、「こいつ、商売っ気はないけど本物だな」と確信しました。3年くらい周囲に「彼は情熱はあるけど常識がない」と言いふらして回りましたが、その純粋さがファクトリエの根幹にあるんですよね。

迷ったらAI、という「頼り癖」がクリエイティブを殺す story02

山田:
時代は変わり、今は生成AIがアイデアを出す時代になりました。企画のプロである薫堂さんは、AIとどう向き合っていますか?

小山:
遊びや「壁打ち」としては使っていますよ。例えばもし家を建て替えるなら……というイメージ図を生成したり。

山田:
家のイメージもAIで作れるんですね。

小山:
AIに頼るのが当たり前になると、「頼り癖」という病が出てくるのが一番怖い。クリエイティブの本質は、崖っぷちに追い詰められたところで「ここから落ちたら終わりだ」と歯を食い縛り、脳に汗をかいてひねり出す「0から1」の瞬間にあります。AIという保険があると、どこかに「なんとかなるだろう」という油断が生まれ、表現の牙が抜けてしまう。AIが導き出す答えは、過去の膨大なデータの平均値、つまり「誰かがいつか考えたこと」の延長線上でしかないことを忘れてはいけない。自分だけの厳源は、やはり自分の中に持っておくべきです。

「ほんもの」とは、「愛の根っこ」を育めるもの story03

山田:
ファクトリエは「ほんものづくり」を掲げていますが、薫堂さんにとっての「本物」の定義とは何でしょうか?

小山:
以前、エッセイで書いたことがあるのですが、辞書的な意味での「本物」と、私たちが心で感じる「本物」は少し違う気がします。例えば、正確に時を刻むことだけが時計の本質なら、電波時計が最高の本物です。でも人は、職人が魂を込めて作った機械式時計に「本物」の価値を見出しますよね。

山田:
なるほど、正確さだけが本物ではないと。

小山:
植物学者の宮脇昭さんは、「厳しい環境に耐えて長持ちするもの」を本物と定義しました。

山田:
長く使えるものが本物ということですか・・

小山:
漢字の「本」という字も、木の「根っこ」に印をつけた形から来ているそうです。つまり本物とは「根っこのあるもの」なんです。僕自身の言葉で定義するなら、それは「愛の根っこ」です。一点の曇りもなく愛したくなるもの。

山田:
愛の根っこって素敵な言葉ですね。

小山:
その品物が生まれるまでの背景に愛を感じることもあれば、過酷に使ってもへこたれないタフさに愛着が湧くこともある。「愛着」という言葉は、「愛を着る」とも書けます。僕らは愛を着せたいものを作り、使う人は愛を着ていると実感する。そんな幸福な関係が本物を生みます。

story04

山田:
まさに、薫堂さんが愛用してくださっているファクトリエのシャツやパンツ(ボクサーパンツ)も、その一つになれているでしょうか。

小山:
なっていますよ。正直、ユニクロに比べれば高いなと思いますけど(笑)、洗濯しても全然へたらないし、履くたびに「今日の自分は当たりを引いたな」と密かにテンションが上がる。

僕は貧乏性なのでなかなか物を捨てられないのですが、パンツを捨てる時は一つだけルールを決めているんです。必ず「海外の旅先」で捨てる。ハワイやロサンゼルスのホテルのゴミ箱で、「今までありがとう、最後はいい場所で終わろうな」と感謝を込めて。

そんな風に、人生のハレの日に連れて行きたくなるような「愛の根っこ」を持ったプロダクトこそ、ファクトリエが作り続けるべき「ほんもの」なのだと思います。

山田:
愛を着せたくなるような服作りを、これからも頑張りたいと思います。本日はありがとうございました!

2012年の記事はこちら