- 木村 正人(津軽塗技術保存会 会長)× 山田敏夫(ファクトリエ代表)

15人の職人で守り継ぐ、重要無形文化財「津軽塗」
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山田:
本日のゲストは、青森県弘前市にある「木村漆工房」の代表であり、津軽塗技術保存会の会長を務められている木村正人さんです。木村さん、よろしくお願いいたします!

木村さん(以下敬称略):
よろしくお願いします。

山田:
今回は弘前市の工房にお邪魔しているのですが、本当に素敵な作品ばかりでワクワクしています。木村さん、重要無形文化財といえば「人間国宝」のような個人を想像する方も多いと思いますが、「津軽塗技術保存会」は団体として重要無形文化財の認定を受けていらっしゃいますよね。

木村:
そうですね。1人の個人ではなく、古くから受け継がれてきた技術を持つ職人がチームとして技術を保存・継承しているというコンセプトになります。現在は15名の職人で構成されています。

山田:
15名もの卓越した技術を持つ方々が保存会を支えていらっしゃるのですね。そもそも津軽塗とはどういう特徴を持った塗り物なのでしょうか?

愛着を込めた「バカ塗り」と、遊びに見えた職人の道
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山田:
津軽塗のルーツをたどると、江戸時代まで遡るそうですね。

木村:
そうです。当時の津軽藩主が「津軽ならではの独自の塗り物産業を作ろう」と発案されたのがきっかけです。福井県の若狭から職人を呼び寄せ、何度も漆を塗り重ねて削り出す若狭塗の技法をベースに開発されたと言われています。

山田:
津軽塗を調べると、愛称として「バカ塗り」という言葉が出てきますが、これは地元でも親しまれている呼び名なのですか?

木村
ええ、悪い意味ではなく親しみを込めた表現ですね。「馬鹿みたいに手間暇をかけ、愚直で丁寧に塗っている」という意味なんです。そこまで手をかける生真面目さを表した愛着のある言葉なんですよ。

山田:
まさに愚直なまでのこだわりですね。木村さんご自身は、どのようなきっかけでこの道に入られたのですか?

木村:
うちは代々続く津軽塗師の家で、私で5代目になります。幼い頃、父が作業場でヘラを使って漆をかき混ぜている姿を見ていたのですが、職人の仕事というよりはまるで楽しく遊んでいるように見えたんです。「こんなに面白そうなことができるなら自分もやってみたい」と思ったのが原点ですね。なんと幼稚園の作文にもう「漆屋さんになりたい」と書いていました(笑)。

山田:
幼少期の「楽しそう」という純粋な気持ちが今に繋がっているのですね。

木村:
実際にやってみると、ものづくりは自分に合っていて本当に楽しいです。もちろん上手くいかない時は腹も立ちますが、練習を重ねてできるようになるとまた面白い。ずっとその繰り返しで楽しんでいるんだと思います。

山に入り漆を掻き、道具すら手作りする職人の誇り
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山田:
木村さんは作品を作るだけでなく、ご自身で山に入って漆の木から樹液を採る「漆掻き(うるしかき)」もされていると伺いました。

木村:
はい、6月末から10月頃にかけて、3〜4日に1回のペースで早朝4時くらいから山に入って採っていますよ。最初は先輩方に声をかけられてついて行ったのが始まりですが、「自分で採った漆で自分の作品を作る」という経験をすると、ものづくりの楽しさが一気に跳ね上がるんです。

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山田:
漆の木1本から、年間でどれくらいの量が採れるものなのですか?

木村:
1本の木から1年かけて、たった200cc程度しか採れません。ですから全然足りないのですが、自分で採ること自体が楽しくてやっています。朝のひと汗をかく運動みたいなものですね(笑)。

山田:
自ら原料を採る姿勢も素晴らしいですが、技術継承の面で課題に感じられていることはありますか?

木村:
技術を継承するには、若い人にまず「自分の道具を作ること」から教えていかなければなりません。昔も今も、職人を目指すなら刷毛を調整したり、刃物を研いで自作したりするところから始まります。漆を塗る前に、まずは道具を作る。その自分の手になじむ道具に愛着が湧くことで、仕事がどんどん面白くなっていくんです。

江戸時代の500種類を超える津軽塗の模様と表現の進化
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山田:
木村漆工房さんが得意とされる「紋紗塗(もんしゃぬり)」について伺わせて下さい。木村さんの作品はシックでモダンであり、現代の暮らしに非常に馴染みますよね。

木村:
ありがとうございます。「自分にしかできない津軽塗を作りたい」という想いは昔からありました。お客様の「こういうものが欲しい」というご要望に応えたり、自分なりに模様を工夫したりする中で、今の「紋紗塗」の雰囲気が出来上がってきました。

山田:
伝統を守りつつも、柔軟に進化されている印象を受けます。

木村:
弘前の博物館には、江戸時代から伝わる約500種類もの津軽塗の「見本板」が残されています。保存会でもそれを研究するのですが、なぜ500種類も溜まったのかと考えたら、当時の職人たちが「誰も見たことがない新しい模様を作ってやろう」と競い合って進化させてきたからだと思うんです。

山田:
伝統とは、ただ同じ形を守り続けることではないのですね。

木村:
その通りです。塗り重ねて模様を作るという本質さえブレなければ、時代ごとのアイデアや知識を注ぎ込んで種類を増やしていくことこそが、本来の津軽塗の姿なはずです。次の300年後には1,000種類になっているくらいの気持ちで挑戦していきたいですね。

化学の進化やZ世代とのコラボ。枠にとらわれない新しい挑戦
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山田:
道具を作る職人さんの減少など業界の課題もある一方で、科学の発達によって漆の色のバリエーションが増えるといったポジティブな変化もあるそうですね。

木村:
そうなんです。昔に比べて漆の色のバリエーションが飛躍的に増え、絵の具で調合するように好きな色を作れるようになりました。ポップな色合いから渋い色合いまでお客様の好みに合わせられるので、表現の幅は大きく広がっています。

山田:
さらに木村さんは、Z世代向けメディアでの情報発信や、チェロとピアノの楽曲とのコラボレーションなど、これまでの工芸の枠にとらわれない発信を積極的に行われていますよね。

木村:
伝統だからと重く受け止めるのではなく、時代や世代ごとの好みに合わせて柔軟に対応すればいいと思っています。「絶対譲れない土台や基本」さえしっかり押さえておけば、見た目の形や表現は時代に合わせて遊んでいい。そうすることで「津軽塗って面白いな」と知ってもらえるきっかけになれば嬉しいですね。

使って届く「ありがとう」の循環こそが、ほんものづくり
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山田:
時代を超えて愛される工夫が詰まっているのですね。最後に、木村さんにとっての「ほんものづくり」とは何か、お聞かせいただけますか?

木村:
私にとっての「ほんものづくり」とは、お客様の思いや「こうしてほしい」という声に誠実に向き合い、長く愛着を持って使ってもらえるものを作ることです。

山田:
単に作品を作って渡して終わり、ではないのですね。

木村:
漆器は繊細に見えて非常にタフな道具です。正しく扱えば何十年も持ちますし、傷ついても職人が手当て(修復)をすれば再び長く使い続けられます。展示会で賞を取ることよりも、使い手の方から「私の手元に届けてくれてありがとう」と喜んでもらえる瞬間が何より嬉しいんです。

山田:
お客様との対話や手入れを通して、長く繋がり続けていく物語そのものが「ほんものづくり」なんですね。本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!

木村:
こちらこそ、ありがとうございました。