FACTORY
繊維の技術で人々の課題を解決する
「DEOEST®」を生み出したセーレン株式会社のルーツは、日本の近代化を支えた繊維産業の歴史そのものと深くリンクしています。福井県を中心とする北陸地方は、1600年代の江戸時代初期、初代福井藩主であった結城秀康(松平秀康)が「玉紬」を奨励し、後に「奉書紬」として全国にその名を轟かせた時代から続く、日本屈指の「繊維王国」です。この歴史的土壌の上に、セーレンは1889年(明治22年)に産声を上げました。
社名の由来ともなっている「精練(せいれん)」とは、生糸や絹織物を水洗いし、繊維を覆うタンパク質であるセリシンを取り除いて、絹本来のしなやかさと美しい光沢を引き出す極めて高度な職人技を指します。創業以来、絹の精練業からスタートした同社は、時代が明治から大正、昭和へと移り変わり、素材が絹から合成繊維へとパラダイムシフトを起こす激動の歴史の中にあっても、常に繊維加工の最前線に立ち続けてきました。
現在のセーレンは、約200名もの技術者・研究者を社内に擁し、売上高1,596億円(2025年3月)規模を誇る巨大なテクノロジー企業へと変貌を遂げています。
自動車のシートから人工衛星の部材、独自のデジタルプロダクションシステムである「ビスコテックス」、さらには精練職人の手が冬でも美しかったことをヒントに開発された独自製法の「ピュアセリシン」を用いた化粧品事業に至るまで、その事業領域は「繊維」という言葉の概念を打ち破るほどに幅広いものです。
しかし、どれほど最先端の分野に進出しようとも、同社の根底に流れる「素材の持つ力を極限まで引き出し、人々の生活を豊かにする」という精練業時代からのDNAは、決して揺らぐことはありません。
自動車のシートから人工衛星の部材、独自のデジタルプロダクションシステムである「ビスコテックス」、さらには精練職人の手が冬でも美しかったことをヒントに開発された独自製法の「ピュアセリシン」を用いた化粧品事業に至るまで、その事業領域は「繊維」という言葉の概念を打ち破るほどに幅広いものです。
しかし、どれほど最先端の分野に進出しようとも、同社の根底に流れる「素材の持つ力を極限まで引き出し、人々の生活を豊かにする」という精練業時代からのDNAは、決して揺らぐことはありません。
一通のメールから始まった不可能への挑戦。「瞬間消臭」を生み出した執念
DEOEST®の技術の誕生の裏には、極めて深刻な医療・介護現場からのSOSが存在していました。事の発端は、広島大学病院感染症科の大毛宏喜教授からセーレンへ送られた一通のメールでした。
大毛教授は日々の診療の中で、過敏性腸症候群(IBS)やガス失禁に悩む患者様たちの深い苦悩を目の当たりにしていました。自身の意思とは無関係にガス(おなら)が漏れ出てしまうこの症状は、患者様の社会生活を著しく阻害し、対人恐怖や引きこもりといった深刻な精神的ダメージを引き起こします。大毛教授は自身の研究を通じて、「ニオイは空気中に漂う前に、その発生源に最も近いところで包み込んで消すのがベストである」という確固たる持論を持っていらっしゃいました。偶然にもビジネス誌でセーレンの「新しいものづくりにチャレンジし続ける企業マインド」を目にした大毛教授は、「ニオイを包み込んで瞬間的に消す布を作ってくれないか」と打診されたのです。
大毛教授は日々の診療の中で、過敏性腸症候群(IBS)やガス失禁に悩む患者様たちの深い苦悩を目の当たりにしていました。自身の意思とは無関係にガス(おなら)が漏れ出てしまうこの症状は、患者様の社会生活を著しく阻害し、対人恐怖や引きこもりといった深刻な精神的ダメージを引き起こします。大毛教授は自身の研究を通じて、「ニオイは空気中に漂う前に、その発生源に最も近いところで包み込んで消すのがベストである」という確固たる持論を持っていらっしゃいました。偶然にもビジネス誌でセーレンの「新しいものづくりにチャレンジし続ける企業マインド」を目にした大毛教授は、「ニオイを包み込んで瞬間的に消す布を作ってくれないか」と打診されたのです。
この直球の依頼に対し、セーレンの開発陣は即座に呼応しましたが、そこに待ち受けていたのは、繊維工学の常識を覆さなければならないほどの巨大なハードルでした。当時の日本における消臭機能の一般的な評価基準(JIS規格など)は、「2時間後にニオイがどれだけ減少しているか」を測定するものでした。しかし、ガスのニオイや強烈な排泄臭が「2時間後」に消えても、実用上の意味は全くありません。周囲にニオイが伝わり、患者様が社会的尊厳を傷つけられるのは「発生した直後の数秒間」だからです。セーレンに課せられたミッションは、「数時間かけて消臭する生地」ではなく、「発生源で、瞬時に、30秒以内でニオイを無力化する生地」をゼロから創り出すことでした。
開発の初期段階は困難を極めました。開発スタッフはまず、消臭素材として一般的な「活性炭」を用いた製品の試作を行いました。確かに活性炭の消臭能力は高いものです。しかし、活性炭を使用すると生地の物理的な色がどうしても黒ずんでしまい、肌に直接触れる「下着」としての審美性や清潔感を著しく損なってしまう結果となりました。どれほど優れた消臭機能があっても、下着として快適に着用できなければ、患者様の日常を救うことはできません。肌に寄り添う衣服としての「やわらかさ」や「伸縮性」を完全に担保したまま、劇的な瞬間消臭力を付与する。この矛盾する二つの要素を両立させるため、開発チームは暗礁に乗り上げながらも、約1年半にも及ぶ果てしない試行錯誤を繰り返すこととなりました。
大毛教授の監修のもと、実際の医療・介護施設での過酷な調査研究と実証実験を重ね、現場の切実なニオイの問題を解決できる商品仕様へと練り上げていきました。単なるスペック上の数値目標ではなく、実際の人間が身につけ、生活空間の中で機能するかどうかを極限まで突き詰めるこのプロセスは、まさに「価値を優先する非効率なものづくり」そのものでした。
開発の初期段階は困難を極めました。開発スタッフはまず、消臭素材として一般的な「活性炭」を用いた製品の試作を行いました。確かに活性炭の消臭能力は高いものです。しかし、活性炭を使用すると生地の物理的な色がどうしても黒ずんでしまい、肌に直接触れる「下着」としての審美性や清潔感を著しく損なってしまう結果となりました。どれほど優れた消臭機能があっても、下着として快適に着用できなければ、患者様の日常を救うことはできません。肌に寄り添う衣服としての「やわらかさ」や「伸縮性」を完全に担保したまま、劇的な瞬間消臭力を付与する。この矛盾する二つの要素を両立させるため、開発チームは暗礁に乗り上げながらも、約1年半にも及ぶ果てしない試行錯誤を繰り返すこととなりました。
大毛教授の監修のもと、実際の医療・介護施設での過酷な調査研究と実証実験を重ね、現場の切実なニオイの問題を解決できる商品仕様へと練り上げていきました。単なるスペック上の数値目標ではなく、実際の人間が身につけ、生活空間の中で機能するかどうかを極限まで突き詰めるこのプロセスは、まさに「価値を優先する非効率なものづくり」そのものでした。
若き研究者のブレイクスルー。ナノテクノロジーが実現した機能と着心地の両立
重苦しい停滞を打ち破ったのは、セーレンに在籍する一人の若手研究者からの画期的な提案でした。当時、世界的に実用化の黎明期にあった「ナノテクノロジー(超微細技術)」を、消臭繊維の開発に応用できないかというアイデアです。若手研究者の着眼点は、活性炭を物理的に生地に貼り付けるという従来のアプローチを捨て、活性炭と同様またはそれ以上の機能を持つ特殊なセラミックス粒子を、直径ナノレベル(1ミリメートルの100万分の1)にまで微小化し、繊維を構成する分子の隙間に直接「入れ込む」という極めて高度な手法でした。
この提案を受けた開発チームは直ちに研究の舵を切り、持てる技術のすべてを注ぎ込みました。その結果完成したのが、特殊セラミックスナノ粒子と金属イオンを組み合わせた、セーレン独自のデュアルアクション(吸着・分解の2段階)消臭メカニズムです。
ナノレベルにまで微粒化・露出化されたセラミックス粒子が、繊維の無数の隙間に強固に定着します。体から発生したニオイ分子が生地を通過しようとした瞬間、このセラミックスが圧倒的な表面積をもってニオイ分子を物理的かつ瞬時に「吸着」し、空気中への拡散を阻止します。そして、セラミックスに吸着されたニオイ分子に対して、金属イオンが化学的に反応し、ニオイの元となる成分そのものを分子レベルで分解・無臭化するのです。
この提案を受けた開発チームは直ちに研究の舵を切り、持てる技術のすべてを注ぎ込みました。その結果完成したのが、特殊セラミックスナノ粒子と金属イオンを組み合わせた、セーレン独自のデュアルアクション(吸着・分解の2段階)消臭メカニズムです。
ナノレベルにまで微粒化・露出化されたセラミックス粒子が、繊維の無数の隙間に強固に定着します。体から発生したニオイ分子が生地を通過しようとした瞬間、このセラミックスが圧倒的な表面積をもってニオイ分子を物理的かつ瞬時に「吸着」し、空気中への拡散を阻止します。そして、セラミックスに吸着されたニオイ分子に対して、金属イオンが化学的に反応し、ニオイの元となる成分そのものを分子レベルで分解・無臭化するのです。
このナノテクノロジーの導入は、消臭スピードの飛躍的な向上だけでなく、下着としての「着心地」という最大の課題をも同時に解決しました。国広氏のインタビューによれば、着心地の良い生地を先に作り上げ、その後にナノレベルの極めて微小な粒子を付加する(または繊維に入れ込む)ことで、元々繊維が持っている心地よさや伸縮性を一切損なうことなく、強力な機能を持たせることができたといいます。
さらに特筆すべきは、その驚異的な「耐久性」と「網羅性」です。DEOEST ®の消臭成分は、単なる表面コーティングではなく繊維に極めて強固に固着されているため、100回という過酷な洗濯テストを繰り返した後でも、その消臭性能はほとんど劣化することがありません。また、複数のセラミックスと金属イオンを緻密に組み合わせることで、ガス(おなら)のニオイだけでなく、アンモニアに代表される汗のニオイ、ノネナール等の加齢臭、さらには足のニオイやワキガ臭に至るまで、人体から発生するあらゆる不快なニオイをまとめて徹底的に消臭するという離れ業を実現しました。
ニオイの発生メカニズムの根本には、皮膚上の常在菌が汗や皮脂を代謝・分解するプロセスが存在します。DEOEST®は、強力な抗菌機能を併せ持つことで、ニオイの元となる雑菌の繁殖そのものを強力に抑制し、衣服内を常に清潔な状態に保つ防波堤としての役割も果たしているのです。
ニオイの発生メカニズムの根本には、皮膚上の常在菌が汗や皮脂を代謝・分解するプロセスが存在します。DEOEST®は、強力な抗菌機能を併せ持つことで、ニオイの元となる雑菌の繁殖そのものを強力に抑制し、衣服内を常に清潔な状態に保つ防波堤としての役割も果たしているのです。
医療現場から日常の「エチケット」へ
2008年7月、医療・介護施設向けのソリューションとして産声を上げたDEOEST®は、過酷な現場で働く人々や深刻な症状に悩む患者様を救済するためのプロフェッショナル向けプロダクトとして確固たる地位を築きました。しかし、その圧倒的な機能性は、瞬く間に一般消費者の間でも話題を呼ぶこととなりました。
現代社会において、「ニオイ」に対する意識はかつてないほど高まっています。職場や満員電車、エレベーターといった密閉空間において、自身の体臭や汗のニオイが他者に不快感を与えていないかという懸念は、多くの現代人が抱える見えないストレスとなっています。特に、近年の日本の過酷な夏の環境下においては、汗を吸い取りながらニオイを無力化する機能性アンダーウェアの存在は、もはや贅沢品ではなく、社会生活を円滑に送るための「必須のエチケットツール」へと昇華しています。
「ニオイが消える」という物理的な事象は、単なる化学変化の積み重ねに過ぎないかもしれません。しかし、その化学変化がもたらすのは、「周りに気付かれているのではないか」という不安からの解放であり、堂々と人と接することができる自己肯定感の回復です。医療的な深刻な悩みを解決するために生まれた極限のテクノロジーが、結果として、現代を生きるすべての人々の日常の不安を払拭し、心に平穏をもたらす「着るお守り」として機能しているのです。
現代社会において、「ニオイ」に対する意識はかつてないほど高まっています。職場や満員電車、エレベーターといった密閉空間において、自身の体臭や汗のニオイが他者に不快感を与えていないかという懸念は、多くの現代人が抱える見えないストレスとなっています。特に、近年の日本の過酷な夏の環境下においては、汗を吸い取りながらニオイを無力化する機能性アンダーウェアの存在は、もはや贅沢品ではなく、社会生活を円滑に送るための「必須のエチケットツール」へと昇華しています。
「ニオイが消える」という物理的な事象は、単なる化学変化の積み重ねに過ぎないかもしれません。しかし、その化学変化がもたらすのは、「周りに気付かれているのではないか」という不安からの解放であり、堂々と人と接することができる自己肯定感の回復です。医療的な深刻な悩みを解決するために生まれた極限のテクノロジーが、結果として、現代を生きるすべての人々の日常の不安を払拭し、心に平穏をもたらす「着るお守り」として機能しているのです。
1889年に絹織物を洗う精練業から始まったセーレンの歩みは、形を変え、素材を変え、事業のスケールを宇宙規模にまで広げた現在においても、その精神の根幹は全く変わっていません。「繊維の力で、人間の尊厳と日常を守り抜く」。日本の技術と情熱が生み出した真の意味での「ほんもの」が、いま、私たちの肌と心に寄り添おうとしています。
セーレン株式会社
繊維王国として知られる福井県で1889年に創業し、絹織物の「精練」からスタートした技術力を活かし、衣料から医療・介護、宇宙産業まで幅広い分野で最先端の素材を開発しています。 お客様のリアルな悩みを技術で解決する「課題解決型」の姿勢を貫き、極限の機能性と着心地を両立させるなど、表面的なイメージにとらわれない誠実な本物づくりに取り組んでいます。
福井県福井市毛矢1丁目10-1